治すことを忘れた鍼灸界① 美容鍼は鍼灸治療の危機鍼灸師の方へ
種々鍼灸理論・鍼灸法が工夫され活発に提唱された時期が一時あったが、今日の鍼灸は臨床での活気が低下し、古典鍼灸理論派から中医学鍼灸が勢いを得ている。さらには美容鍼に人気が拡散している。これは効果があいまいでも済むことで、鍼灸学校学生の安易な治療姿勢の動機につながりやすい。美容整形ならば手術による人為的容貌に変えることが美容となるが、美容鍼は美容手術ではない。確実に顔面組織の機能向上となる脳循環系、脳神経系が改善される必要がある。眼瞼から全顔面にわたる顔面神経系の改善、鼻腔組織の改善、眼球組織の動眼神経、視神経、滑車神経のすべて、そして顔面筋ばかりではなく何より顔貌が改善される決め手は顔面骨である。それは眼球の形状にも直接影響し、顎関節の変位も大きく影響する。このことから、本当に顔貌の美的変化が起きるのならば顔面神経麻痺の改善から、三叉神経痛、アトピー性皮膚炎、顔面チック、ジストニアだけでなく、目も健康になるのであるから、種々の眼疾患も正常になり、慢性的鼻炎があれば、鼻根の膨張、鼻翼の形状バランスも正常にならなければならない。
つまり、本当の顔貌の美容効果が生じるのなら、皮膚科医、眼科医、口腔外科医の水準を超える治療技能が要求されるということを自覚しなければならない。一般に美容鍼で効果の基準にしているのは、ほうれい線である。術後ほうれい線が目立たなくなったことを強調するが、これは顔面筋全体が顔面神経の機能低下による顔面筋の弛緩で、頬の頬筋も締まったのではなく下がり、顔面の形状が平面化する。施術者の美容効果として挙げているのはたんに顔面神経の機能低下現象に過ぎない。多くの術前、術後の写真がネットで掲載されいるのを見ればいずれも術後の方が異常となっている。
治療としての正しい全身疾患に対する刺鍼であるならば、顔貌についても一回の刺鍼で、患者に黙って鏡を見せれば、目が輝き、潤いの出た肌、顔面の締まりに驚嘆の声を発するものである。
表情筋にはすべての精神作用があらわれ、喜怒哀楽を表現できるほど鋭敏で、高機能を持つ表情筋に金属の異物を刺されて、それも多数穴刺鍼では、生体組織が正常を保つはずがないことが理解できないようである。同様な金属である豪鍼は裁縫針とは異質で生体に異物とはならないと思っている。純粋に医療効果を目的とするべき鍼灸学会の研究誌まで、美容鍼報告を登場させ、鍼灸界全体が自ら鍼灸効果を貶めているのである。