1.鍼灸治療における異常・正常の判定|半身症候鍼灸研究会は技術向上を望む鍼灸師、医師、鍼灸学生の為に新鍼灸セミナー、講習を随時開催しています。

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メッセージ
現代鍼灸の存続は、理論のみの鍼灸から効果公開鍼灸への変換が必須条件である

1.鍼灸治療における異常・正常の判定新鍼灸

昨今、鍼灸界では灸治療の限界が口にされ、そして臨床では不適応疾患適用の増加傾向が見られる。資格取得後の鍼灸臨床に対する不安と、経験の有無を問わず鍼灸師全体にわたり、臨床に対する自信がある表情が見られないのは思い過ごしなのだろうか?

それは鍼灸界指導者の間にも感じられる。各講習会の場面などにも臨床に対する自信感の薄い表情は、何からくるのだろうか?筆者には鍼灸理論に関係があるように思うのである。科学派の現代医学に準ずる鍼灸理論はさて置き、やはり未だに主流である古典理論的鍼灸理論を見たとき、治療理論の最も根本的要素である正常・異常という概念があいまいである。正常・異常の判定があいまいなら、治療行為そのものの精度も確信あるものにはならない。指導者層の表情に浮かぶ臨床に対する充実感が感じられないのも、その理論上の正常・異常概念の不明確さに起因しているように感じられるのである。

そして古典理論に基づいて人体、生体を検査するということでは、もしその理論が生々しく生体を浮かび上がらせるものでなければ、生体現象は理解できるものではない。まず抽象的表現で複雑な理論体系を理解することを強いられ、その後、症状、状態の生体現象をその理論体系に分類していかなければならなくなる。最初は東洋哲学的高尚な理論に酔うことができても、その治療効果とどのように結びつけるのか途方にくれるのではなかろうか?これらからやがて鍼灸治療の限界を感じて行くのかもしれない。

では、これらの検査に何が欠けているのだろう?

それは、まず臨床時に対面する患者の体についてどこが異常で、どこが正常なのか?自身の感覚で理解できないところだと考える。例えば、異常部位には痛みがあるという記述があってさえ、臨床上痛みが必ずしも異常サインとはならないことがある。知覚鈍磨している異常部位がある場合や、障害が長期にわたっている障害程度が重度であるときなどにも多いことである。そればかりではなく、日常遭遇する軽度の体調不良のときの症状にもこのようなことが生じている。このときには往々にして痛みが、機能回復の向上により出現してくることがある。

蔵象学上の蔵器の証を検査しても、臨床においては我々の直接検査対象となる解剖学上の臓器が存在し、炎症反応を呈しているのである。解剖学的知識が希薄だった古代においては良かったかもしれないが、現代人には治療されている内容の因果関係が理解できない。治療において重要な患者自身が自己の体の状態を理解することが希薄な状態では、患者の治癒力も向上しないのである。患者は胃の苦痛を訴えているのに、その炎症部位、噴門、体部、底部、小湾部、幽門部、あるいは白内障のとき、水晶体、硝子体、網膜、膝状体等各部位の検査ができない。心臓疾患のとき、各弁の検査ができない。不整脈、動悸に対し心臓の拡張障害、収縮障害の検査ができない。更に心臓と肺機能との関連も検査できない。各症状についても問診でこと細かく身体組織の状態を知ることはできない。

選穴では、刺鍼前に効果の予測できない等々、証に分類検査しても、患者の苦痛の状態を正確にそのまま知ることができない。以上のことから、現在の鍼灸界が鍼灸不適応疾患を増加さしている現状が納得できるのである。

⑴.筋肉反射テストで確実な正常・異常の判定

筋肉反射テストは非常に厳しい正確な技量を必要とするが、一定レベルの技量を修得したときには、万人が人体の器官・組織の異常を確実に診断できる。画像診断のように影があるとかではなく、影も形もなくても、その組織の生体機能上の炎症の状態、正常・異常を確実に標示してくれるのである。そしてその技量修得の難しさを、誰でも容易に習得できる方法として、筆者が考案したTRテストがある。このテスト法は一般者向けの講習会の指導でも、大部分の人がその場での10数分程度の練習で確実に修得している、一般者の場合は、食品の有害・無害を判定するのだが。テスト法は手の母指・示指背側骨間筋の弛緩反射(経穴の合谷あたり)を診るのである。患者にも一度説明指導すると自分で異常部位を正確に検査してくるくらいシンプルである。更にその原因まで調べ出すことができるので、原因部位に刺鍼すれば確実に症状を改善し、刺鍼前のこのテストにより事前に効果の予測ができる。

⑵.触診

切経では、体表全体にわたる異常・正常がわからない。

解剖学的内臓を正確に検査する必要がある。特に運動器疾患では、まず四肢の骨格系の状態を精細に検査しなくてはならない。多くの筋肉、靭帯の障害の本に微細骨折があり、四肢関節障害で微細骨折が関与していないものはない。X線、MRIで異常が見えなければ異常なしとするレベルの病院医療を鍼灸師も踏襲していては、鍼灸の本領を発揮できない。西洋医学で分からないものは鍼灸でも分からない。西洋医学で治らないものは鍼灸でも治らなくて当然という現状の鍼灸界の風潮になってしまう。正しい精細な手技的検査がなければ、鍼灸治療は生きてこない。正しい触診の仕方も、書物では理解できない。触診の接触の感覚を向上させることは、熟練した技量を持つ治療家から指導を受けなくてはならないだろう。治療する手の感覚をどこまでも鋭敏にする努力を継続していかなければ向上していかない。

鍼灸理論に四診法の触診法があっても、他の手技治療家に比較して、荒く粗雑な触診をしていることを指摘して起きたい。例えば鍼灸師が資格取得後10年、20年の臨床を経た後、当初と比較してどの程度手指感覚を向上できただろうか?先ず、向上しないだけでなく、中年後、次第に手指の神経機能低下と関連して筋肉が強張ってくる。これはつまり、経験数と共に診断能力、治療能力の低下を表わしている。

⑶.脊髄検査

脊髄には脊髄神経と一部の自律神経が分布している。脊髄の検査法がない治療法である鍼灸理論を駆使する、すべての鍼灸師が臨床に自信が持てないのは無理からぬことである。脊髄の検査は筋肉反射テストであるTRテストで確実にできる。この重要な脊髄の検査法に関心がない治療家が本当に病気を治せるのだろうか?